ホームブリュー手順(ver202108)

 本ブログを始めてから5年目に突入。石の上にも三年というが、5年経っても自分のケツは冷たい気がする。そんな手前の醸造手順であるが、最新版を書き起こすことにした。

 こちらは本ブログ開設時に投稿したもの。
vvm.hatenablog.com
 手順は大きくは変わってないけど、今ではやらなくなった工程や細かい微調整があり、更新するより最新の手順を新たに書き起こしたほうが楽かなと。

はじめに

 醸造の方法は大きく分けて、モルトを糖化させる方法と、糖化工程を省略したモルトエクストラクトを使った方法がある。それぞれの方法の正式な呼び方がわからないが、ここでは前者をフルマッシング仕込、後者をエクストラクト仕込と呼ぶことにする。また、フルマッシング仕込にはロータリングとスパージングを簡略化したBIABという新しい手法があるが、ここで紹介するのは簡略化しないクラシックなフルマッシング仕込である。

 醸造は大きく次の工程で進む。説明は日本語と英語を適当に織り交ぜるので、ここで定義しておく。

 ・マッシング(糖化)
 ・ロータリング(濾過)
 ・スパージング(麦芽洗浄)
 ・ボイル(煮沸)
 ・チル(冷却)
 ・ファーメント(発酵)

レシピ構築

 まずは造りたいビールのスタイルから材料の分量を決める。
 ターゲットOGと予想糖化効率*1をレシピビルドツールに入力して、使用するモルトの分量を決める。

 レシピ構築ツールはここが豊富
Brewer's Friend | Homebrew Beer Recipes, Calculators & Forum

 計算式を紹介した記事はこちら
レシピ構築(初期比重編) - homebrew diary
レシピ構築(IBU編) - homebrew diary
レシピ構築(カラー編) - homebrew diary

 自分はExcelでガチガチに組んだダサい自作ツールをいまだに愛用している。

モルト準備

 モルトを計量して砕く。モルトは殻に包まれており、このままでは糖化が進まないので事前に砕く必要がある。しかも砕き方に注意があり、殻の形を極力残す必要がある。残った殻が濾過工程で天然の濾過材になるのだ。モルトを砕く道具としてローラーミルと言うものがある。ローラーミルがなくても、砕いた状態のモルトが売っているので、それを購入しても良い。ちなみに、昔の自分はローラーミルを買うのを渋って、精米機で粉々にしていた。そういう場合は不織布などの濾過材が必要となる。

モルトの写真
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モルトミルの写真
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モルトを砕いたあとはこんな感じ
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水の準備

 仕込みに使用する水を準備する。水は水道水でもいいが、使用する水をきっちり管理することが大事だと思う。醸造中に水が足りなくなって、その都度準備に動き回るのはやめたい。自分は、マッシングとスーパージングに使用する水を醸造前に準備しておく。水量は使用する穀物の約7倍の重量。モルト1kgなら7ℓってこと。また、醸造水はリン酸を使ってpH5.2*2にする。

マッシング(糖化)

 マッシングは、モルトに含まれる酵素を使ってでんぷん質を糖に変換する工程。鍋にモルトの重量の2.5倍の水を入れて、火にかける。水が35℃になったらミルしたモルトを投入。以下のステップでマッシングを行う。

 ・セルロースレスト    35℃ 5分
 ・プロテインレスト    52℃ 10分
 ・サッカリフィケーション 62℃ 15分
 ・サッカリフィケーション 69℃ 15分
 ・マッシュアウト     76℃ ー
 ・並行してスパージング用の水を温めて80℃にしておく

 このマッシング手法は、体験醸造で行っていた手法を簡略化*3したものだ。これまでセルロースレストなんて聞いたことなかったが、先生が教えてくれたのだから間違いない。それぞれのレスト間の昇温間隔は1℃/1分程度。マッシュアウトは酵素を失活させるステップ。時間が「-」なのは、76℃に達したらすぐにロータリングに移っているから。ロータリング中に失活するだろうと思ってる。
 マッシング時に注意することは、昇温中に底が焦げ付かないように混ぜるくらいかな?正直、温度管理は少しくらい誤差があってもちゃんと糖化する。

マッシング中の写真
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ロータリング(濾過)

 この工程は、糖化が終わったモルトから麦汁を濾す工程。濾過する道具は様々あるが、自分は2重漬物樽ロイタータンを使っている*4。底に無数の小さな穴を開けた漬物樽とコックがついた漬物樽を2つ重ねて、モルトから麦汁を濾す。
 ロータリングの基本的なやり方は以下の5ステップ。

  1. マッシュをロイタータンに移す
  2. コックをひねると濁った麦汁が出てくるので、それをロイタータンの上に戻す
  3. 麦汁が透明になるまで2を繰り返す
  4. 透明になったらボイル用の鍋に入れる
  5. 水面からマッシュが出ないように、スパージング用のお湯をロイタータンの上から静かに注ぐ

漬物樽を使ったロイタータン
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 漬物樽を使うなら、値が張っても100℃耐熱の頑丈なものを勧める。格安ホームセンターのものは70℃耐熱品で、素材が柔らかく、ドリルで穴をあけると穴がつぶれてキレイに穴が開かないのだ。

糖化がおわったモルトをロイタータンに投入した写真
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初めは汚れた麦汁が出るので、これをロイタータンに戻す
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 ロータリングで気を付けるようにしているのは、水面からマッシュの頭を出さないこと。お湯を一度切らすと追加時に麦汁とモルトが攪拌してしまい、それを洗い流すのにさらなるお湯が必要になる。必要な水量できれいに洗い流すためには、マッシュの頭を出さないことだと思っている。あと、ロータリングの最後にモルトを絞らない。絞るとタンニンが出て渋みになるらしい。濾し終わった後の麦汁の量は、モルト1kgで水7ℓ準備したなら、6リットル。ざっくりとモルト量と同量の水をモルトが吸ってしまう。麦汁の量が足りないからと言って、モルトが吸った水を絞ったりせず、きれいな水を足す方がよいと思っている。

ボイル(煮沸)

 麦汁を煮沸する工程。煮沸はいろいろな意味を持つ、とても重要な工程だ。麦汁を消毒する。麦汁内の不快成分を揮発させる。不要なタンパク成分を固める。あと、ビールにホップの苦みをつける。ボイル時間は60分~90分間で、ボイル中は以下のことを行う。

  1. レシピで決めたタイミングでホップを投入
  2. 終了15分前に消毒のためウォートチラーを投入
  3. 終了15分前に消毒を兼ねて清澄剤を投入

 自分は、できるだけ強火でボイルすることを心がけている。少なくとも30分はグツグツ煮沸する。煮沸が弱いと発酵中にDMSが香るってことが何度かあったからだ。清澄剤は、アイリッシュモスか寒天を使用する。間違っても「ゼラチン」を使うなよ!*5

強火でボイルしている写真
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チル(冷却)

 ボイルが終了したら麦汁を冷やす。そのためにウォートチラーを使用する。このように、ウォートチラーを水道の蛇口にホースでジョイントして、冷水を通して熱交換する。これを20~30分間行う。排出水はもったいないので、夏の時季はバケツにためて庭に撒く。
 発酵温度まで下げたいけど水道水では下がり切らないので、25℃程度まで下がるのを目標としている。発酵容器に移してから、冬の場合はベランダに放置する。夏は保冷剤を密着させて下げ切る。

チル中の写真 
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 なんか複雑な構成になっているが、排水を大きな鍋にためて、外側からも冷やすようにしているだけ。夏はこれくらいしないと30分で下がり切らない。

イースト投入

 ここでは、チル後からイースト投入までの作業を説明する。
 チルが終わったら、麦汁を鍋から発酵容器に移す。麦汁には煮沸中に固まったタンパクや使用したホップ滓が沈んでいるので、きれいな上澄みだけ移していく。そのためにサイホンを行う。サイホンは水槽清掃用のプロホースで行っている。

サイホン中に片手で撮影した写真
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こんな感じで底に滓がたまっている
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 残り2リットルを切ると、サイホンが鍋底の滓を吸い上げ始めるのでサイホンを中止して、残りの麦汁はペットボトルの上部をカットした容器に移す。これで滓が沈殿するまで待つ。

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 発酵容器はストッカーに漬物袋を張って使用している。エアロックは使用しない。これは昔から変わっていない。

発酵容器はこんな感じ
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 イーストを投入する際は、投入温度に気を付けている。ラガーだったら10℃を切るまで。エールなら18℃まで冷やす。先ほど書いた通り、いろいろな方法で下げる。場合によっては数時間かかることあるが、しっかり温度を下げることを心がけている。

 冷えたらエアレーション。エアレーションはイーストの増殖に必要な酸素を麦汁に溶け込ませる作業である。5分間ストッカーをゆさゆさ振る。30分後に沈殿させていたペットボトルの麦汁とイーストを投入して、さらに5分間エアレーション。最後に比重計に計測用の麦汁を取り分けて完了。ここまでが1日の作業。

1stファーメンテーション(一次発酵)

 イーストが元気だと翌日から発酵を確認できる。エールだと1週間程度、ラガーだと2週間程度この状態を維持する。発酵のピークが過ぎたらレシピによってはドライホップを投入する。発酵の進み具合は、比重計を毎日計測すればわかる。比重遷移は糖度計でもわかるので、好きな方でどうぞ。

2ndファーメンテーション(二次発酵)

 一次発酵が終わったらサイホンで別な容器にウォートを移動。底に活動の終わったイーストや発酵中に固まった固形物が溜まっているので、それらを入れないように移動。これを澱引きという。そして、二次発酵フェーズに入る。二次発酵中にビールに何が起きているのか、自分はよくわかってない。しかし最近この期間が重要だと思っている。自分はエールで2週間くらい、ラガーで3週間~4週間くらい冷暗所で放置する。ドライホップする場合は、終了10日前に投入して3日間つけて抜く。長く漬けると草っぽい渋みがつく気がしている。また、清澄のためにゼラチンを投入するのもこのフェーズ。70℃程度のお湯でゼラチンを溶かして投入する。ゼラチンの投入は終了の1週間前かな。

 この後ボトリング手順に入る。こちらの手順は昔と変わっていないので、旧手順を参考にされたし。

vvm.hatenablog.com



以上。

*1:使用したモルトに対して取り出した糖の割合 醸造設備により70~90%くらい違いがある

*2:一応、デジタルのpH測定器を使っている

*3:デコクションを省略

*4:これは5年前から変わっていない

*5:ゼラチンは沸騰させると苦み成分を生成する。昔知らずにボイル時に使っていた。